大府市(人口92,414人(平成31年3月末)、面積33,66㎢)は、昭和45年の市政施行以来「健康都市」を都市目標に掲げ、昭和62年には個人の健康のみならず、地域社会全体で健康なまちとなることを目指す「健康づくり都市宣言」を行い、平成18年には、WHOが提唱する健康都市連合に加盟し、市として健康づくりに取り組むことができるような環境を整えているとのことであった。
特に、「4人に1人が65歳以上の高齢者」という高齢社会が進む現在、65歳以上の高齢者のうち認知症患者の割合はその約15%という国の推定がなされている。大府市は総人口92,414人中、高齢者数は19,725人全体の21.37%、後期高齢者数は9,646人全体の10.44%となっている(平成31年3月末現在)。
このような現状を背景として大府市では早くから「認知症を予防できるまち」「認知症になっても安心して暮らせるまち」を目指したまちづくりに取り組まれている。平成21年に認知症地域資源活用モデル事業、平成22年介護予防実態調査分析支援事業への参加、平成23年から65歳以上の市民全員を対象とした「脳とからだの健康チェック」の実施、平成27年度から認知症不安ゼロ作戦と称し国立長寿医療研究センターと共同で認知症を予防するための大府市プログラムの作成、健康な高齢者の方も含めて、まち全体で認知症予防に向けた取り組みに参加できるスキームづくりを進められているとのことであった。また、平成29年に市の債務などを定めた全国初となる「大府市認知症に対する不安のないまちづくり推進条例」を制定されている。
これらの取り組みについて、各担当課から説明を受けた。
○昭和62年3月健康づくり都市宣言
「健康は私達一人ひとりにとってまた、家庭・社会にとって最大の財産であり、豊で活力に満ちた生活を営むための最も重要な基礎となる共通の願いである。
心身の健康は、自分で守り、つくるものであるという自覚のもとに、市民の体力づくりや保健活動の向上を目指す必要がある。
ここに全市民の総意・総力を結集して長寿社会に向けて、「健康づくり都市」を宣言する。」
○大府市の大きな特徴「国立長寿医療研究センター」との連携
国立長寿医療研究センターは平成16年3月に開設された国立高度専門医療研究センターの一つである(全国に6つある)。健康長寿を目指したモデル的な長寿医療を行う病院とともに、認知症や骨粗しょう症をはじめとする老化・老年病の最先端研究を推進している。大府市をフィールドにして高齢者の実態調査をしているとのことであった。大府市との共同研究や業務委託も様々受けている。
連携事業
平成22年 大府健康長寿サポート会議 介護予防実態調査分析事業
平成23〜平成24年 脳とからだの健康チェック2011(市内65歳以上の5,011人の方が調査に協力。認知機能検査、体力測定、口腔機能検査、血液検査が行われた。)
平成24〜平成28年 予防介護 二次予防事業(健康長寿塾)
平成25年 認知症予防のためのコグニサイズを中心とした運動介助研究
◎コグニサイズとは・・・国立長寿医療研究センターが開発した運動と認知課題(計算、しりとりなど)を組み合わせた認知症予防を目的とした取り組みを総称した造語。
Cognition(認知)+ exercise(運動)= cognicise(コグニサイズ)
MCI(軽度認知障害)の高齢者の認知機能の向上に有効実証された
平成25年 認知症介護予防スタッフ養成事業 〜平成27年
平成27年 運動指導員の育成 〜平成28年
平成27年〜平成29年 認知症不安ゼロ作戦
・平成27〜28年 「脳とからだの健康チェック2015〜2016」
・平成28〜29年 プラチナ長寿健診(厚労省モデル事業)と
コグニノート開始
平成27〜29年 長寿・健康増進事業(栄養モデル事業)
・低栄養からフレイル状態になることを予防するために
・管理栄養士による個別訪問指導を開始(厚労省モデル事業)
◎コグニノート(活動記録手帳)
対象:プラチナ長寿健診を受診したうちの希望者
利用者:H28 747名 H29 1,553名 H30 1,391名
内容:コグニノートの記録・結果の郵送
日常生活と認知機能の関連を分析する目的。
コグニノートに日常生活内容を記入し、社会参加が認知症予防に有効であることを検証する。
現在約1,400人の利用者のうち、約3割の人が毎日つけている、どういう活動
をしている方が脳機能を維持できているのか分析できる。何をやっていたから良くなったというのはまだわからないが、何らか働きかけがあり、本人の生活によっては回復する可能性が高いということが証明できた。
◎地域版健康長寿塾
目的:要介護状態になることの予防を目的とし、運動器・栄養・口腔機能の向上において、機能維持だけでなく機能の向上、高齢者のQOL(生活の質)の向上を目指す。
内容:コグニサイズ等の運動、茶話会、専門職(理学療法士、保健師・管理栄養士・歯科衛生士)の健康相談。
申込制ではなく、参加自由。年齢制限なし。高齢者が参加しやすいよう、より身近な地域の公民館3ヶ所で実施。1回に50~60名の参加あり。生活圏域に1ヶ所ずつの設置を目指している。
○大府市の認知症支援に対する取組
H19 共和駅の鉄道事故の発生→認知症サポーター養成開始
H20 知多地域成年後見センター設置
H21 愛知県認知症地域資源活用モデル事業
H22 介護予防実態調査分析支援事業
H23 ふれ愛サポートセンタースピカ開所
認知症地域支援推進員の設置
大府健康長寿サポート事業開始
H26 在宅医療介護連携拠点推進事業実施(認知症ワーキンググループの設置)
H27 認知症総合支援事業実施
H28 認知症介護家族支援事業、認知症カフェ登録事業開始
H29 大府市認知症に対する不安のないまちづくり推進条例制定
H30 認知症初期集中支援事業開始、見守りネットワーク拡充、認知症サポーター養成2万人チャレンジ、徘徊言い換え、本人ミーティングの開始
☆大府市認知症に対する不安のないまちづくり推進条例の主な特徴
・日本で初めてとなる認知症施策に関する総合条例
・平成19年12月に大府市内に住む認知症の人が列車にはねられて亡くなるという事故が発生。後に認知症の人を介護する家族の監督義務のあり方をめぐって最高裁判所まで争われることになった。認知症施策の更なる推進が求められる中で、認知症の人やその家族が住み慣れた地域の中で安心して暮らせることができる社会の実現にはまだ多くの課題があることを実感。大府市として新たな取組の必要性を感じたとのことが条例の策定の背景にあるとのことであった。
・平成30年から実施される新たな取組として、市内で起きた鉄道事故を教訓とし、認知症の人が第三者の身体や財物に損害を与え、法律上の損害責任を負った場合に家族等が被る損害を補償する、故人賠償責任保険に市が加入する事業を行う。
コグニノートの取り組みがとても参考になった。記録をしていくということは、生活習慣の振り返りにとても有効であるとともに、日々の行動を意識して過ごすことにもつながると考える。周南市でも取り組みができたらと考える。
認知症高齢者等個人賠償責任保険事業は、市が契約者として加入することに対して批判の声が上がるのではという心配があったとのことであったが、実施後は窓口に喜びや安心の声が届き、認知症の方の家族以外からも歓迎の声が出たとのことであった。鉄道事故があった当事者のまちとして、どのような支援ができるかということが大きな影響を与えているのだと考える。また、見守り・捜索支援サービスとして、GPS端末を携帯するサービスにも取り組まれている。対象者は要介護または要支援の認定を受けていて、行方不明になる恐れのある認知症の高齢者(市内在住)を在宅で介護している家族(市内在住)とのことである。平成29年で利用者は6件であったが、平成30年では利用者が2倍となり大きな効果が見られるとのことであった。
また、行方不明者創作模擬訓練の実施による地区ごとに行方不明者対応マニュアルを作成することや見守りネットワークづくり、認知症カフェ、認知症サポーターの養成、認知症家族支援プログラム講座の開催、介護家族交流会の開催、認知症のご本人の方の集いの開催など、多様な取り組みによって支援・見守り体制を常にバージョンアップしながら構築されていることを理解できた。
GPS端末などの技術も活用しながら、見守る人づくり、支える人づくりにも力を入れて市全体で意識を向上させるのだというまちの強みが見える取組であった。
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