〇社会保障政策をめぐる環境
・本格的な少子高齢社会の到来→昭和22-24年生まれの団塊世代が2025年に後期高齢者になる。医療・介護の需要が急激に増える。需要に対して供給が足りない状況へ。急激な社会変化が進む。
・国債に頼る国家財政→日本はプライマリーバランス赤字を許容して財政支出を増やし、経済成長を加速すべきだという指摘。
〇都市部と地方での違い
・都市部では後期高齢者の急増による医療・介護資源の絶対的不足。
・地方では人口の急減による自治体の消滅が相次ぐことが予測される。
〇人口の急激な高齢化
・特に1都3県を中心に都市部の都道府県で高齢化が進展する。
〇地域の最重要課題は高齢者をいかに支えるか
・これからの日本にとって最重要課題は、激増する高齢者の生活をいかに支え、看取っていくかである。
〇絶対的な医療資源不足
・爆発的な高齢者の増加に対し、絶対的に医師・看護師などのマンパワーや入院病床などの医療資源が不足することが予測される。
・入院のための病床・スタッフ不足
・救急のためのスタッフ不足
・専門外来のためのスタッフ不足
・医療のための財源の不足
一番不足しているのは介護。介護士がいない。
財政ではなく、マンパワーが足りないということが一番まずいこと。医師や看護師の外国人登用の課題あり。日本語の壁。
〇自治体の最大課題は財政健全化か?
〇財政がある程度健全なら投資をして雇用を確保して、地域の出生数を上げるべき。
〇地方財政が安定している
・地方債現在高+債務負担行為―積立金現在高は約137兆円程度で安定。
・臨時財政対策債を除いた地方債残高は平成23年の107億円から平成30年の89億に減少。
〇臨時財政対策債
・国の地方交付税特別会計(所得税の33.1%、酒税の50%、法人税の33.1%、消費税の22.2%、地方法人税の100%)の財源が不足し、地方交付税として交付するべき財源が不足した場合に、穴埋めとして、地方自治体が地方債を発行する制度。
・償還に要する費用は後年度の地方交付税で措置される。
〇借金のかなりの部分が地方交付税で措置
・臨時財政対策債は返済に要する費用全額が後年度の地方交付税で補填。
・合併市町村については合併特例債が認められている。返済の70%は地方交付税で補填。
おそらく財政措置はこれからも充実していくと思われる。
〇財政的に健全な自治体も多い
・合併特例債を利用した自治体を中心に財政が健全な自治体は多い。
・財政が健全ゆえに将来のための人材投資をすべき。
- しかし、現実には基金に余裕があっても財政担当は人材育成に予算を使わない。→財政の効率かは重要であるが、何のために効率化するのか。子孫の将来のためではないか。基金はあるが、少子化で地域が消滅して良いのか。消滅を防ぐために人材に投資すべきではないか。
〇病院の2極化現象
・医療の高度・専門化に対応した急性期病院
手厚い医師・看護師、医療スタッフの配置、高額な医療機器、最新の高度・専門医療を提供、短い平均在院日数、大量の患者を早いベッドの回転数で受け入れ、高い診療報酬(高い入院基本料+医療加算)
・医療の高度・専門化に対応できない病院
少ない医師・看護師などの医療スタッフ、高額な医療機器を十分に使いこなせない、採算割れとなることも多い、平均在院日数が長くなる、患者も他の医療機関に流れやすくなる、社会的入院で病床を埋めることも多い、低い診療報酬(低い入院基本料+医療加算を取れない)
〇厚生労働省が進める「地域医療構想」
社会保障・税一体改革が目指す医療・介護サービス提供体制改革
・入院医療の機能分化・強化と連携
・急性期への医療資源集中投入
・亜急性期、慢性期医療の機能強化等
・地域包括ケア体制の整備(在宅医療の充実、在宅介護の充実)→地域に密着した病床(一般急性期、亜急性期等、長期療養)での対応。「施設」から「地域」へ、「医療」から「介護」へ。しかし病院から医師が離れていく可能性はある。
〇平成26年6月成立 医療・介護総合推進法
・新たな基金の創設と医療・介護の連携強化(地域介護施設整備促進法等関係)→都道府県の事業計画に記載した医療・介護の事業(病床の機能分化・連携、在宅医療・介護の推進等)のため、消費税増収分を活用した新たな基金を都道府県に設置。
・地域における効率的かつ効果的な医療提供体制の確保(医療法関係)→医療機関が都道府県知事に病床の医療機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)等を報告し、都道府県はそれをもとに地域医療構想(ビジョン)(地域の医療提供体制の将来のあるべき姿)を医療計画において策定。医療確保支援を行う地域医療支援センターの機能を法律に位置付け。
〇地域医療介護総合確保基金
・対象事業:地域医療構想の達成に向けた医療機関の施設又は設置の整備に関する事業、居宅等における医療の提供に関する事業、介護施設等の整備に関する事業、医療従事者の確保に関する事業、介護従事者の確保に関する事業
→非常に使い勝手が悪い補助金となっているという指摘。
〇地域医療構想において目指したいのは医療費の削減。
〇いつの間にか地域医療構想の課題が自治体・公的病院の統合再編になった。→ベッド(病床数)を減らせという話になった。
〇民間病院関係者の自治体病院への強い批判あり。→公民が競合している場合公立・公的医療機関等と民間病院は同じ土俵にない。もし担っている機能が同じなら公立・公的医療機関等が引くべき。
〇病院の統合再編は地域に医療を残すための一つの選択肢
・医療が高度・専門化する中で小規模の病院では、若手中堅医師は勤務せず、大学医局もなかなか医師を派遣しない。
・看護師も集まりにくく、認定看護師などの資格者も増やしにくい。
・患者も医療提供の充実した大病院に流れる。
・患者の減少で病院経営も厳しくなる。
・近くにある中小規模の病院を統合再編し、提供できる医療を高度化し、研修体制を充実することで医師や看護師の数を増やし、レベルを向上させる。
・医療提供力が充実することで患者が集まり、経営が安定する。
〇医師の働き方改革
・医師残業時間の上限規制(原則:法定労働時間1日8時間、週40時間、月残業45時間=一日残業2時間程度、年360時間)
〇都市部の自治体では病院の統合再編により医師を拠点病院に集めることが必要な場合もある。
〇公的病院等の424病院再検証要請の衝撃→再検証要請424病院は政府の骨太方針2019を踏まえている。
・過剰とされる病院のベッド(病床)数を削減するため、厚労省は再編・統合を促す予定の公立・公的424病院のリストを公表した。
・自治体が経営する中小病院が多く、手術などの診療実績が少ないことから「再編・統合の議論が特に必要」と判断された。
・今後1年以内に再編・統合の結論を出すよう要請するが、身近な病院を残したい地域住民や自治体の反発も予想される。
→公表後、全国の病院現場から批判を受ける。非効率だけれど資金をつぎ込んで維持するか、難しいと思ったら合併・再編するか、それは厚労省が決まることではないという批判の声。厚労省が個別の病院名まで挙げた点について「やりすぎだ」という批判。
〇再検証要請の問題点
・全国一律で急性期病院の診療実績33%で線を引いたため、僻地の中小病院が数多く対象とされた(その地域の唯一の病院だったりすることを考慮されていない。)
・全国一律で自動車20分の距離が適応され、積雪や山間地などの事情を考慮していない。
・病院に予告なく行われたため、病院職員や住民・患者に不安を与えた。
・再検証機関が1年間と短い。
・大学医局から医師が引き揚げされる危険性あり。(経営の危ない病院として医師を引き揚げ、新しい派遣が行われない危険性が高くなる。)
・地方中小自治体病院をなくしても、そもそも医師数が少なく、医師の集約化(働き方改革)に繋がらない。
・医療費の削減にも繋がらない。
・統合再編が必要な病院はある中で、必要と思われる病院が入っていない問題もある。
〇国の地域医療構想や地域医療調整会議の議論の問題点
・自治体病院の統合再編は地方自治体の問題である→地域医療構想は国の医療政策である。しかし、具体的な自治体の統合再編の問題になれば地方自治の問題になる。
・自治体病院の運営は、地方自治体の自治事務である。
・厚労省医政局はこのことを全く理解していない。
・中央集権で、一方的な数字一つで地方が動くと考えている。
〇自治体病院の統合再編をする場合
・対象となる病院が立地する地方自治体(首長)が設置する検討会議での議論が必要。
・多様な視点で議論する必要から、調整会議の医療者とは別の委員が選任されることなる(重なる場合もある)。
・最終的には自治体の設置する会議の結論を地方議会が審議して議決を行う。
〇自治体の手上げ方式が適当であった
・地方分権を踏まえれば、国が一夫的に統合再編対象をあげるのではなく、手厚い財源措置を前提に自治体に手を上げさせた方が統合再編に進むと考える。
〇地域医療再生基金で成功事例がある
・筑西市・桜川市病院再編において厚労省の地域医療再生基金は後押しになった。
・全国に地域医療再生基金の交付を受けて統合再編した成功事例は多数存在する(加古川市も成功事例)。
・成功事例を横展開すべきであった
〇世界的に見て多い日本の病床数
・世界的に見て日本の病床数は多い。
・過大な病床数に医師・看護師が分散配置されている。
・結果として診療の密度が低く、平均在院日数が長くなっている。
・その中で、公的病院は病床数を規制する法律あり。私的病院は、開業医が病院を新たに開設し、病院の規模を拡大するという形で増加。
〇医療費地域差指数と自治体病院
・自治体病院の病床数の割合の高い都道府県の医療費の地域差指数は低い傾向がある。
・民間病院の病床数の割合の高い都道府県の地域差指数は高い傾向がある。
→無秩序な民間病院設置のツケを自治体病院が払う必要はない。
→公的病院を縮小し医療費を抑制するという議論には根拠はないとも思われる。
→医療費削減には、病院数の半数以上を占める公的病院の医療費削減政策が必要である。
〇自治体病院への繰入金は地方財源
・自治体病院を廃止し、一般会計繰出金相当分を診療報酬等に移すことは困難。
〇医療への地方財源の投入の意義
・国家財源(厚労省所管予算)としての診療報酬や国庫補助金は予算の制約がある。
・地方財源を医療に投入することで、医療政策の補完ができる。
・自治体病院の廃止は医療に関する地方財源の縮小につながる。
〇「正義」の反対派は「悪」ではなくもうひとつの正義
・反対派の理論を「地域エゴ」と決めつけ、統合再編を強引に進めれば、反対派の「正義」の感情はかえって高まる。
・地域にとって病院の統合再編が必要な場合でも反対派の「正義」が勝つこともある。
〇情報公開とデータに基づく議論
・行政の仕事は多様な価値が対立することを本質とする。
・利害関係を調整しつつ妥当な結論に導き合意を得ていくことが必要。
・情報の公開とデータに基づくリアルな議論がより妥当な結果に至る方法である。
・行政が権力で一方的に結論を強制しても、多面的な議論がされないことで間違った結論になることも多く、反対による合意の遅れ、問題の先送りとなる可能性も高い。
〇統合再編や病院移転に必要なこと
・反対の起きやすい住民・患者への情報の提供を行うこと
・反対する住民・患者の意見によく耳を傾けること
・データを基に議論を行うこと
・医療現場(特に院長)の意見をよく聴くこと
〇市区町村医療計画の必要性
・地域医療構想の424病院再検証要請を踏まえれば、基礎自治体のレベルでの医療政策が重要となる。
・医療と介護の連携を進める地域包括ケアの確立も課題。
・地域の医療・介護の人材育成も必要。介護保険事業計画だけでは医療と介護の連携を十分に図れない。
・都道府県の医療計画は、市町村レベルの医療政策、医療・介護の連携、医療・介護人材の育成までは考えない。
・市町村医療計画を策定し、地域の医療政策、医療・介護の連携、医療人材の養成を計画化すべきである。
講師が関わった病院統合再編の例がいくつか提示された中の一つに、加賀市医療センターの例がある。統合について地元住民の合意を得ずに決定。反対運動を生み、病院統合を決定した市長は選挙で落選。新市長のもと検証委員会を設置(統合新病院建設計画検証委員会(委員長:北川正恭早稲田大学教授(当時))し、毎回50人を超える傍聴者の中で6回にわたりデータに基づいた議論が行われ、市民が3分間自由に発言できる「市民の声を聴く会」も開催。最終的に病院再建を継続することが市の財政や医療提供の上で最適であるという報告書がまとめられた。このような手法は参考になると考える。データに基づく議論がきちんとなされ、判断されることが望ましいと考える。また、周南市の医療計画策定について調査を続けたい。
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